いよいよ開会式の日。やはり人出が多いのだろう、いつもはバスで10分で着くメイン・プレス・センターまで30分近くもかかる。きのうまでの所要時間は当てにならないと考えた方がいいようだ。

 この日は、まずメーン会場そばにあるベースボール・スタジアム(きのうとは違う)で日本選手の練習取材だ。松坂大輔(写真左)らプロ8選手がこの日の朝に到着。小休止のあと、初めてチームに合流しての練習だ。さらに記者会見。17日の米国との初戦は、間違いなく松坂の先発だろううが、太田垣監督は口を割らない。記者会見で米国(と思うが)の記者が、監督や松坂にしつこく食い下がるが、監督は「アメリカが発表するなら、発表します」とかわし、松坂も困った顔をして笑みを浮かべるだけ。

 米国は、公には発表していないが、もうベン・シーツ(ブリュワーズ)が先発することは本人も口にしている。このあたりは日米の感覚の違いなのかもしれない。試合まで手の内を隠して勝負する日本に対し、米国は真っ向勝負。どちらがいいのか分からないが、何となく米国の方が自信たっぷりという気がする。

 プレスセンターへ行って原稿を書き、小休止。いよいよ開会式の会場へ向かう。トイレへ行こうと別の方角へ歩いた時、偶然にも97年世界選手権(ロシア・クラスノヤルスク)で一緒になり、その後、ひょうんなことでメールをやりとりしているモンゴルのバヤンバー・チャガンバーター記者とばったり。メールで「シドニーで会おう」と伝え合っていた。しかし、実際には言葉もそうそう通じないし、うまく会えるかどうか分からなかった。こうもうまく、大会の早いうちに会えるとは思わなかった。

 約3年ぶりの再会を祝福し合い、かたことの英語を駆使しあいながら開会式の行われる競技場へ向かう。日本から取材に来ている記者は、おそらく500人くらいで、カメラマンや技術職員を入れれば2000人は超えているだろうが、モンゴルからは総勢5人で、彼はモンゴル・オリンピック委員会のオフィシャル記者なのだという。

 今回の大会は選手・役員が総勢1万5000人。対して、報道陣は約2万人とか。これもちょっと異常な状態であると思う。日本における過熱報道を自粛するべき時に来ているのではないだろうか。チャガンバーターには、来年6月にはモンゴルで予定されているアジア選手権に「ぜひ行くよ」と伝える。

 さて会場へ入ってみると、開会式の1時間前だがもう8分の入り。いよいよ平和の祭典がスタートすると思うと、身震いがした。開会式は、立体空間もふんだんに駆使したアトラクション(写真右)が1時間半くらい続き、やっと選手の入場行進。199か国・地域が集うと、すべてグラウンドに登場するまでに1時間半を超えてしまう。最初に登場するギリシアなどは、この間、ずっとグラウンドで待っていなければならないから大変だ。

 でも、世界のほとんどの国が集まったことに言いようのない感動を覚えたことは確かだ。特に、韓国と北朝鮮が“同じチーム”として行進した時は、観客のボルテージも上がり、目頭が熱くなった。

 政治家同士は相容れない両国だが、人間同士は仲悪くなく、同じ民族としての団結心すら感じることもある。バルセロナ五輪のフリー48kg級決勝は南北対決で、勝ったキム・イル(北朝鮮)とはちょっとした顔見知り。「彼と私は同じ国の人間だ。なぜオリンピックで同国人と戦わなければならないのか。とても悲しかった」というコメントが印象に残っている。

 彼らにとって待ち望んだ日だったのではないか? 今回のオリンピックが南北統一の足がかりになるとしたら、まさにオリンピックは「平和の祭典」である。記者席前のモニターには、国際オリンピック委員会(IOC)のサマランチ会長が満面の笑みで統一チームに拍手を送るシーンが映し出されていた。いつもは“悪徳商人”というイメージしかないが、この時は“平和のプロデューサー”と感じずにはいられなかった。

 日本は、競技を翌日や翌々日に控えている選手や、サッカーのようにキャンベラにいる選手、レスリングのようにまだシドニー入りしていない選手は不参加。こう長い開会式だと、体調維持のため「出席しなくていいよ」と言いたくなる気持ちも理解できる。「気持ちを高めるために出席しろ」も一理あるし、どちらがいいかの答は永久に出ない問題だろう。それにしても、マントのようなユニホーム、カッコ悪かった。日本の記者団からは失笑がもれていたほど。

 聖火の点灯も終わり、予定を1時間半もオーバーして夜11時半に終了。それから原稿書き。“深夜業務”は記者の宿命だが、ちょっぴり辛い。私の場合、あしたはヤワラちゃん(田村亮子)の試合取材で午後3時スタート。お昼ごろまでは寝ていられるので、まだ気が楽だが、他社の記者は、普通に(7時ころ?)起床して取材開始というところが多いみたい。「1日1種目」でいい内外タイムスの記者でよかった!(続く)

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