この日の午前中は永田やカレリンが出るので、寝過ごすことはできない。それでも予定より30分多く寝てしまって危ないところ。朝食はパンだけにし、すぐに向かうが、電車が途中で何度も止まり、イライラしてしまう。結局、10分遅れで会場へ到着。まずカレリンの決勝トーナメント1回戦。相手がずんぐりむっくりのせいもあって、カレリンズ・リフトは狙わず、3−0と手堅く勝つ。

 続いて永田の準決勝。ロシアが相手だけに分が悪いと思われたが、先にパッシブを取り、常に先手先手で攻めたのがよかった。0−0からのコンタクト・ポジションを押し倒して1点を先制。さらに相手が投げ技を仕掛けようとしてバランスを崩した機に2点を取る。スタミナなら日本選手の方がある。勝てる、という気がした。

 ラスト26秒にパッシブを取られる。「回されても1点に押さえろ」と祈る。その通りになった(写真右)。決勝進出。高田監督も興奮しているし、永田本人もかなり興奮している。「こうなったら金で終わりたい」と言う。日本にいる兄(裕志=プロレスラー)に電話してやる。寝ぼけ声だったが、決勝進出を教えてやるとびっくり仰天。永田に電話を渡し、兄に報告させた。続いて日体大の安達巧監督、会場に来ていたお母さんが電話に出る。お母さんは兄と電話している最中に涙声に(写真左)。こういうシーンは気持ちいい。

 昼食のあと、4時からフリースタイル4階級の計量と抽選。ここで上位進出できるか、そうでないかだいたい分かるので、コーチ陣も祈るような表情で掲示される画面を見つめる(写真下)。2選手(田南部力、宮田和幸)とも、まずまずの組み合わせ。ロシアのコーチとして来ているセルゲイ・ベログラゾフと再会。かつての弟子、和田貴広とは毎日会っているという。

 5時からの午後の部は、カレリンが出ることに加え、永田の決勝進出で日本のメディアも柔道並に押しかける。記者席が窮屈だ。マットサイドにはカメラマンがぎっしりで、その数、約100人。5時40分ころ、永田が登場。日本選手が五輪の決勝のマットに登場するのはソウル五輪以来12年ぶり。相手は74kg級のアトランタ五輪王者のキューバ選手。強敵だが、前の試合で左ひじを傷めたという情報もある。ここまで来たら、過去の実績や実力ではない。勢いであり、勝ちたいという気持ちをいかに強く持つかだと思う。

 しかし、相手は強かった。グレコローマンの豪快さを観客に十分に見せる形で相手の圧勝。残念だが、現段階での実力差はどうしようもなかった。しかし、この銀メダルが日本のレスリング界にもたらす影響は大きなものがある。激闘をねぎらうとともに、アテネ五輪へ向けて頑張ってほしい。

 メーンイベントでカレリンが敗れる大番狂わせ発生。4月にモスクワで欧州選手権を見た時から衰えを感じていたが、その不安が的中してしまった。レスリング界が一般に誇れる大英雄だけに、史上初の快挙を達成させてやりたかったが、勝負の世界は思う通りにいかなかった。この13年間、レスリング界を引っ張ってきたカレリンには、本当にご苦労さま、と言いたい。(続く)

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