前日の失敗にこりて、電車で会場へ向かう。まず川合達夫(写真右の青)の試合。相手はかなりの強豪だが、積極的に攻めてパッシブを取る。またさきで攻め、もう1度またさき。完全にフォールの体勢。相手の疲れを待って、じっくり攻めればフォールへ持っていける。そうすれば決勝トーナメントだ。だが、レフェリーがチョークをとってブレークを命じる。普通は1度、注意する。それがなく。いきなりブレーク。おかしい。

 それでも川合は果敢にタックル。しかし、もつれて両者の体が回転し、気がついていたら川合が押さえられていた。納得のいかない判定。しかし川合は「これが実力です」と言う。変な言い訳はみっともないが、ちょっぴりかわしそうな判定。

 続いて和田貴広(写真左の赤)がマットへ。決勝トーナメントへ残るには5点以上が必要。1点を取り、久し振りにワダ・スペシャルで2点を追加。69kg級へ上げてからは、ほとんど見ることんできなかった必殺技。ワダ・スペシャルという名前は、筆者が広め、アトランタ五輪へ向けて一般マスコミにも大々的に取り上げられるほど有名になった。思わずアトランタ五輪前のチームが一丸となって盛り上がっていた頃の気持を思い出した。

 アトランタ五輪で不可解な判定で負けたあと、「月刊レスリング」に「シドニーで見たいワダ・スペシャル」という記事を書いた。この段階でまだ勝敗は分からないが、4年越しの思いが達成できた。さらに1点を加えた和田だが、第2ピリオド、やや攻撃力がにぶった。あと1点…。そんな気持ちと裏腹に1点、また1点と失い、ついに終了。アトランタの悔しさを晴らすことはできなかった。悔しいが仕方ない。けが、体重増、セルゲイ・コーチとの別離など思う通りには進まなかった4年間だったと思う。69kg級へのアップがもう少し早ければ、という気持もある。

 アテネ五輪までやる可能性もあるという。しかし、もうアトランタ五輪を目指していた頃の勢いを期待するのは酷。続けることに反対はしないが、周囲の何にも惑わされず、自分のためだけにレスリングをやってほしい。

 昼食は知り合いのモンゴル記者(写真下の左)を誘った。「ジャパニーズ・フード? チャイニーズ・フード? コーリャンバーベキュー?」と聞くと「ジャパニーズ」という答。「ロー・フィッシュ、OK?」と聞くと「イエス。アイ・トライ」。本当に大丈夫か? しかし、そこまで言うなら、連れていってやろうじゃないかと思い、前日に行ったブリッジ(名前は知らない=写真右)フィッシュ・マーケットの寿司屋へ行く。

 まず「まぐろ」。きちんと食べてくれるが、顔が渋い。次は「イクラ」。これも厳しそう。ゆでてあるエビは? これも今ひとつの表情。アボガド巻きなら大丈夫だろうと思ったが、一口食べて皿に置いてしまった。カッパ巻を進めるが、箸が出ない。どうも海苔が駄目らしい。生の魚は言うに及ばず、海の幸すべてが駄目なようだ。玉子の握りも海苔をはずして食べていた。

 「別な店で食べよう」と誘うと、「いや、けっこう食べた。自分は小食だから大丈夫」と言う。ならばと、富山さんと行った水族館に連れていき、“海の中”をたっぷり見せる。面白そうにして写真を撮りまくっている。海は珍しいんだろうな。来年6月はモンゴルで3スタイルのアジア選手権。恩を売るわけではないが、その時には今回の“お返し”を期待。

 午後のファイナルのために会場へ入る時に大失敗。入り口の警備のところでカバンを開けて中を見せることになっているが、日本語を話せる係員の問いかけに気をとられ、チャックをきちんとしめないまま肩にかつごうとし、デジタルカメラがこぼれてコンクリートの床を直撃。見事に壊れてしまった。まだ、クレジットカードのデポ払いを終えていないのに…。まあ、修理代は旅行代理点のブンキョ−インターナショナルがかけてくれた保険で出るようなので腹は痛まないことが分かり、ひと安心(ということで、以後、写真のアップロードは不可能になりました)。

 4階級のファイナルはロシアが2階級制覇。76kg級はドイツのアレクサンダー・レイポルドが悲願の五輪優勝。確か3度目の挑戦だと思う。表彰台での顔が大映しにされると、左目の周囲には青アザが。かつてアルセン・ファザエフ(ソ連=五輪V2)、ジョン・スミス(米国=五輪V2)もそうしたシーンがあった。このくらい、前へ、前へと出ていく攻撃力がなければ、金メダルは取れないのだろう。高田強化委員長が「日本選手は試合が終ったあと、顔がきれいすぎる」と言っていたのを思い出した。(続く)

inserted by FC2 system