【特集】全日本選抜女王の誇りを胸に、日本一へ挑戦…女子59kg級・島田佳代子(自衛隊)
【2010年12月14日】


(文=樋口郁夫)



 2012年ロンドン五輪の日本代表争いのスタートとなる今年の全日本選手権。五輪で4階級しか実施されない女子は、過去2回の五輪前と同様、階級を五輪実施階級へ移してエントリーしてきた選手が何人かいる。そんな中、59kg級で今年5月の全日本選抜選手権を制した島田佳代子(自衛隊=右写真)は、五輪で実施されない階級であるにもかかわらず59kg級へ出場する。

 63kg級で闘ったこともあるが、自分の体重からして厳しいと感じた。自衛隊へ進んでまでレスリングを続けた以上、ロンドン五輪への思いはある。そのためにも、「まずは日本で一番になって、そのあとに世界一になることが目標です」と、59kg級で闘うことに迷いはない。

 「選抜で優勝した分、緊張やプレッシャーはあります。これまでの全日本レベルの大会に臨む前とは明らかに違います」とは言うものの、それがマイナスになっていることはない。「かえって緊張感をもって練習できている」とのことで、あと1勝の壁を破れずに世界選手権のマットを逃した今年の二の舞は踏まぬよう、気持ちを盛り上げ来年へ向けての勝負に挑む。

■結果を出せなかったらリストラ? 断崖絶壁の気持ちが優勝へとつながった

 全日本選抜選手権での優勝は、伏兵(ふくへい=敵の不意をつくために伏せしている兵。 転じて、勝負事で現れる予期せぬ選手)としての栄冠だった。2007年のジャパンビバレッジクイーンズカップ59kg級で2位の成績を残していたものの、自衛隊に進んだあとの2008・09年は鳴かず飛ばずで上位進出はなし。いずれも年下の大学選手に負けており、この大会で島田の優勝を予想した選手はほとんどいなかったと思われる。

 しかし、2回戦で全日本チャンピオンの正田絢子(京都・網野高教)を2−0(2-1,1-0)で撃破する殊勲。「崩したり、フェイントをして攻撃する自分のレスリングができました。落ち着いていました」と振り返る。決勝は昨年の世界選手権代表の山名慧(アイシン・エィ・ダブリュ)に2−0(1-0,1L-1)で競り勝ち、表彰台の一番高いところに立つことになった
(右写真:決勝の第2ピリオド、島田=赤=がタックル返しで貴重な1点を獲得して優勝)

 自衛隊の選手として断崖絶壁に立たされていた切羽詰った気持ちも、いい方向へ作用した。自衛隊は、結果を出せなければ辞めざるを得ない厳しい“プロ集団”。2年間、結果を出していなかったのだから、“リストラ”の候補に挙がってもおかしくはない。「今回ダメだったら、どうしようか、とも考えました」。必死の思いが打倒正田につながり、優勝を引き寄せた。

 ところが、プレーオフではこれまで“日本一”に輝いたことのない選手の弱点が出てしまった。「優勝で舞い上がってしまい、満足してしまいました。気が抜けてしまったように思います」。何が何でも世界選手権の代表を奪い取るという気持ちに欠けていては、世界を4度制している正田に勝つことはできない。自分のレスリングができないまま、1ポイントも取れずに0−2(0-1,0-3)で敗れてしまった
(右写真:世界選手権代表をかけて正田と闘った島田=青)

■後悔が残った全日本選抜選手権だが、気持ちが前を向いた

 「プレーオフで勝たなければ意味ないですね」。後悔が残った大会だったが、優勝を経験したことは、その後のやる気につながった。「やってきたことが間違いでなかったと思い、前向きな気持ちになれました」。8月には中国・内モンゴルでの大会出場の機会を得て優勝。10月のサンキスト・オープン(米国)にも参加して銀メダル獲得。国際大会で続けざまにメダルを獲得できた。その間、インドからの招待で実現した合宿にも参加することができ、今年ほど海外で実力を試した年はない。

 「充実した年になりました」。その気持ちが、今度の全日本選手権へ向けての気持ちの盛り上がりにつながっていることは言うまでもない。全日本選抜選手権では、組み合わせを見て、「2回戦で正田さん!」と嫌な気持ちになったというが、リラックスし、いつも通りを心がけたことで勝つことができた。強敵と闘う時の気持ちのもっていき方も経験できたことは大きい。「過剰に意識せず、いつも通りの試合をすれば勝てると考えます」と話し、名前負けすることはなさそうだ。

 自衛隊を練習場としている和光少年少女クラブで幼稚園の時からレスリングをやり、中学時代のブランク(吹奏楽部)を経て、埼玉栄高〜日大でレスリングをやった。日大時代に全日本学生選手権で優勝したことがあるものの、まだ燃え尽きていない感じがした。「これで終わっていいのかな?」という気持ちが、“古巣”でレスリングを続ける気持ちへとなった(左写真=自衛隊で練習する島田)

 「ここでレスリングを終わりにしたい」。2016年リオデジャネイロ五輪まで続けている自分は考えられないので、ロンドン五輪へ向けて燃え尽きる腹積もり。「選抜の優勝の時は『やっとここ(表彰台の一番高いところ)に立てたんだ』という気持ちだけで、世界は見えませんでした。今度優勝すれば、世界が見ると思います」と、意識も世界へ向いている。これまでと違った気持ちで臨む大会で結果を出せるか。

 今回はライバルの一人の山名が55kg級へ出場する。「(マークするのは)正田選手だけ?」という問いに、「これまでの全日本の大会で大学生に負けたりしているので、だれが相手でも気が抜けません」ときっぱり。世界を見つめつつ、足元をすくわれないよう全力で挑む全日本選手権だ。

 

inserted by FC2 system