【特集】長谷川恒平(福一漁業)が世界V5を破ってアジア金!「グレコの伝統つないだ」
【2010年11月22日】



(文=増渕由気子)



 初日に君が代流れる! アジア大会第1日、男子グレコローマン55s級の長谷川恒平(福一漁業)が、準決勝で現世界王者のハミド・スーリヤン(イラン)に2−1で競り勝ち、決勝はアジア選手権3位のカニベク・ゾルチュベコフ(キルギス)にフォール勝ちして優勝(右写真)。4年に一度のビッグタイトルを手に入れるとともに、男子グレコローマンの最軽量階級として初のチャンピオンという快挙も達成した。

 2012年ロンドン五輪へ向け、4年サイクルの最初の年となった2009年、アジア選手権やゴールデングランプリ決勝大会など国際大会4試合連続優勝を成し遂げ、グレコローマン・チームの中で最初にエースの称号を得たのは長谷川だった。しかし、メダル最有力候補として満を持して臨んだ世界選手権は2年連続、表彰台に届かなかった。今年9月のロシア世界選手権で60s級の松本隆太郎(群馬ヤクルト)が銀メダルを獲得すると、“エース”の称号も松本の冠言葉になってしまった。その分、世界選手権で味わった屈辱を4年に一度というひのき舞台で晴らしてみせた。

 初戦の2009年アジア選手権3位のカリシャロフ・マラート(カザフスタン)をストレートで下すと、2回戦もテクニカルフォールで完勝。ハイライトとなったのは準決勝の世界選手権V5の現王者、スーリヤンとの対戦だ。同階級では突出した選手で、長谷川は2008年3月のアジア選手権以来2度目の対決。前回、長谷川はスーリアンに5点技などを決められ完敗している。

■2年半前は憧れのスター、今は倒すべきライバル

 2年半前は「スーリアンは憧れの選手でポスターを部屋に貼っていたことも」と口にし、負けても笑顔だったが長谷川だったが、自身も国際大会で優勝を重ねて成長。今大会、同じマットにあがった長谷川は「ライバル」としてスーリヤンを見据えていた。

 スーリヤンのスタンドは脅威。「いっぱい、いっぱいだった」と振りかえった長谷川だが、3ピリオドにわたってスタンドでの失点は阻止し、すべてグラウンド決戦に持ち込んだ。第1ピリオドは、赤の長谷川の攻撃で、場外際で浅かったがローリングを決めて王者から1点をもぎ取った。

 第2ピリオドは青のスーリヤンが攻撃に。このディフェンスこそ、長谷川が対策に一番時間を割いてきたことだ。「クラッチを組ませてしまわないこと」。しかし組ませてしまって4度もローリングを仕掛けられ、3度はこらえたが最後に失点してしまった。

  第3ピリオドも0−0で終わった場合、それまでの2ピリオドの総得点が多いスーリヤンにグラウンド攻防の選択権が与えられた。スーリヤンは、
迷わず「攻撃」を取った。伊藤広道監督は戦前から「スーリヤンは攻撃に自信がある。以前も大事な試合で迷わず攻撃を取ったから、相手が長谷川でもそうすると思った」と予想していた。その予想通りの選択。長谷川も落ち着いてディフェンス側に回った。

 第2ピリオドの失敗を生かし、組ませない研究の成果を発揮した長谷川は、スーリヤンに30秒間、満足にクラッチを組ませない。残り5秒で完全に切ってタイムアップとなった。力強く右腕を突き上げ、雄たけびをあげて喜びを爆発させた長谷川
(左写真)。コーチ陣も手放しで喜び、「すごいことだよ」と賞賛した。

  「世界王者に勝てて自信になった」とグレコのエースとして風格を取り戻した長谷川。憧れる2002年釜山大会金メダルの松本慎吾(現全日本コーチ)、2006年ドーハ大会金メダルの笹本睦に続いてのアジア大会金メダルを獲得した。「松本先輩、笹本先輩に続いてグレコの伝統を守れてうれしい」−。

 この日、長谷川にとって25歳最後の日で「いい締めくくりになった」。26日には中国で26歳の誕生日を迎える。アジア王者に君臨した長谷川が、日本のエースとしてロンドン五輪出場を目指す。

 

inserted by FC2 system