【特集】初戦敗退も「総合大会の経験がプラスになった」…男子グレコローマン84s級・斎川哲克(両毛ヤクルト販売)
【2010年11月23日】



(文=増渕由気子。撮影=保高幸子)



 5月アジア選手権2位の実績をひっさげて出場した男子グレコローマン84s級の斎川哲克(両毛ヤクルト販売)は、初戦のヤナルベク・ケンジエフ(キルギス)に0−2で敗退。ケンジエフが2回戦で敗れたため、敗者復活戦もなく大会終了となり、半年振りの“アジア”で上位に絡めなかった。

 大舞台の初戦敗退―。海外であっさりと負けてしまうと、取材をシャットアウトするほど落ち込んでしまう斎川だが、今大会を終えた斎川の顔はすがすがしく未来を見据えた表情だった。

 その理由は、「4年に一度のアジア大会」に出たという部分が大きい。「総合大会という祭典に出て、いい経験になった」と、レスリング単体の世界選手権だけでは味わえなかったことがたくさんあった。

 「選手村にはたくさんの国や競技の選手がいました。JOC(日本オリンピック委員会)のマルチサポートハウス(※注1)もよかったです。日本の食糧があり、プールがあったり。(五輪出場経験がある)松本慎吾コーチからは、『五輪になるともっとすごいよ』と言われました」と、すべてが驚きの連続。今から2012年ロンドン五輪が待ち遠しくなり、五輪出場枠の獲得に気持ちが入ったという。

 五輪に出れば、アジア大会を超える経験を積むことは確実。「この環境、すごくいいです」と総合大会を満喫したようだ。「五輪、五輪…」とがむしゃらに目指すのもいいが、五輪に出るメリットを知ることも大切。アジア大会で“祭典”の雰囲気を味わった斎川にとって、試合以外でも学んだことが十分にあった
(左写真=初戦敗退だったが、今後へのモチベーションは上がった斎川)

■今年の3つの海外公式大会、いずれも大きなメリットがあった

 精神面でも成長の面を見せた。2009年のタイ・アジア選手権やデンマーク世界選手権で初戦敗退に終わるとふさぎこんでしまった。「緊張で試合が始まると頭が真っ白になって…」。すぐに結果を求めすぎてしまったことがかえって悪い結末を招いたが、それも“経験”がすべてを解決してくれた。

 シニアの日本代表も今年で2年目。今年のアジア選手権では銀メダル。9月のロシア世界選手権でも初白星を挙げ、海外試合にも慣れてきたのだろう、今回の初戦敗退にも「冷静に自分を見ることができます。初戦の相手は、アジア選手権の時もギリギリで勝っていた相手だから、次は分からないと思っていました。まだ練習が足りません。体力をつけなければ。今日の試合、負けは負けです」と客観的に振り返った。

 今年は3つの海外公式大会に出場。アジア選手権2位、世界選手権で初白星、そして4年に一度の祭典を経験した斎川は、この1年で心身ともに飛躍した。このきっかけがロンドン五輪への着火材となるか。

※注1:「マルチサポートハウス」=広州アジア大会で2年後のロンドン五輪に向けた新たな選手支援プログラム。文部科学省が本格スタートさせた選手支援事業の一環。ホテルの宴会場12部屋を借り、トレーニング室や個人用プールを完備した。専門のスタッフが常駐し、心身両面のケアとともにライバル国の情報分析も行う。大会のホスト国が管理、運営するアスリートビレッジの施設では対応できない、食事の支援や心身両面のケアなど、最終調整を控えた日本選手に最も適切なサポートを行う。  

 

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