【特集】世界選手権へかける(7)…男子グレコローマン120kg級・新庄寛和(自衛隊)【2010年8月15日】

(文=保高幸子)


 北京五輪を機に若返った男子の全日本チームの中で、経験豊富な“年長組”として2007年、昨年に続いて3度目の世界選手権に挑戦するのが男子グレコローマン120kg級の新庄寛和(自衛隊=左写真)。全日本チームでは、同74kg級の鶴巻宰(自衛隊)と並んでベテランと言ってもいいだろう。日本人が世界で活躍するのが難しいとされる最重量級、そんないわれを払拭したい新庄は、今年、「結果を出す」と息巻いている。

■2008年の全日本王者陥落で、ローリングの必要性を痛感

 以前の新庄は、得意とするがぶりでの攻めが多かった。だが、「がぶりは力の差がないと決まらない。特に外国人は肩の力が強くて、守られてしまう」という。そこで新しい技、ローリングを習得するために動き始めた。

 「ローリングの必要性は以前からコーチに言われていたんです」。がぶり攻撃の効かない相手に対して、ローリングができれば、勝利につながる試合が組み立てられる。しかし、なかなか本腰を入れる事ができなかった。

 真剣に取り組むように なったきっかけは国内大会での手痛い経験。2008年の全日本選手権の決勝で、前年から連続で決勝の相手となっているライバル、中村淳志(カンサイ) に負けたことだった。

 第3ピリオド、自分の攻撃の場面でローリングをかけたものの、中村を返すことができずに負けてしまった。新庄に とって、自分が守っていた王座を譲ってしまった事はショックだった。「ローリングをきちんと習得しなくては、と思いました」

 そうした気持ちと行動の変化が実り、昨年の全日本選抜選手権では、決勝、プレーオフともにローリングで勝負を決め、中村を退けて世界選手権(デンマーク)の日本代表になった。しかし2度目の出場となった世界選手権では、2008年アジア選手権(韓国)で勝っていたヌルベク・イブラギモフ(キルギス)相手に黒星を喫して初戦敗退。 「悔しかったです」と言う。

 スタンドでは積極的に攻めることができたが、「グラウンドで相手に技をすんなり決められてしまった」と振り返る
(右写真)。「外国選手はクラッチを組むと強いです。だから、すぐずらさなければ」という反省をもって、以後はグラウンド状態でのディフェンスの強化も重点的にやっている。

■世界選手権でローリングが爆発するか?

 今年から始まった重量級合宿では、スタンド状態で1分間ポイントを狙い続けるという攻撃の練習も多い。「スタンドで1点を狙い、もし取れないとしても、相手をバテさせるこ と」で勝利をものにする…。

 「最近はローリングのコツが分かってきました」と言う。フェイ ントをかけて回すローリングだ。この技は今年5月の全日本選抜選手権で中村相手に決めており
(左写真)、持ち技のひとつと言ってもいいだろう。世界選手権までにさらに精度を上げて、世界で通用するのかどうか試したいという。

 得意技を増やした新庄の「入賞を目指します」という言葉が頼もしい。ハードなトレーニングを積んで、パワーやスタミナも確実に力をつけている。技が増えた新庄が、やれるだけのことをやれば、入賞は夢ではない。

 世界では花形である最重量級を、日本でも盛り上げる事ができるか。表彰台に近いところを目指し、2012年ロンドン五輪につなげたい。


 新庄寛和(しんじょう・ひろかず)=自衛隊、3大会連続3度目の出場
 1982年10月11日、大阪府生まれ、27歳。京都・南京都高〜国士大卒。高校2年の99年に国体ベスト8などの成績を残し、3年生(00年)でインターハイ2位、全国高校グレコ選手権と国体で優勝した。国士大へ進み、02年にJOC杯ジュニアや新人戦で優勝。全日本大学グレコ選手権も4位入賞と力をつけた。
 04年に全日本選抜選手権で2位へ食い込み、全日本選手権で優勝。05年にアジア選手権出場。その後、優勝から見放されたが、07年に世界選手権に初出場。全日本選手権でも優勝し、08年アジア選手権で3位。同年の全日本選手権は2位。09年は全日本選抜選手権とプレーオフに勝って世界選手権へ出場。10年も世界選手権の代表へ。181cm。



◎新庄寛和の最近の国際大会成績

 《2010年》

 
【5月:アジア選手権(インド)】7位(10選手出場)
2回戦 ●[0−2(0-1,0-2)]Murodjon Tuychiev(タジギスタン)
1回戦 ○[2−1(0-1,1-0,1-0)]Kim Gwang-Seok(韓国)

 
【2月:デーブ・シュルツ国際大会(米国)】6位(8選手出場)
5・6決戦 ●[0−2(0-1,0-1)]Timothy Taylor(米国)
敗復2  ●[1−2(1-0,0-1,0-1)]Dharmender Dalal(インド)
敗復1  ○[棄権]Ilyosjon Niyazov(ウズベキスタン)
1回戦  ●[1−2(0-2,1-0,0-7)]Brandon Rupp(米国)

 《2009年》
 
【9月:世界選手権(デンマーク)】24位(30選手出場)
1回戦 ●[0−2(0-1,0-1)]Nurbek Ibragimov(キルギス)

 《2008年》
 【5月:五輪予選第2戦(セルビア)】
19位(20選手出場)
2回戦 ●[0−2(0-6,0-3)]Revaz Kelidze(グルジア)
1回戦  BYE

 【3月:アジア選手権(韓国)】3位(8選手出場)
3決戦  ○[2−0(@L-1,2-1)] Hong Hyun Hee(韓国)
1回戦  ○[2−1(@L-1,0-2,2-1)]Nurbek Ibragimov(キルギス)
準決勝 ●[0−2(TF0-7=1:26,TF0-7=1:22)]David Saldadze(カザフスタン)
 
 《2007年》
 【9月:世界選手権(アゼルバイジャン)】
23位(36選手出場)
1回戦 ●[0−2(1-@L,1-@L)] Mindaugas Mizgaitis(リトアニア)

 
【5月:アジア選手権(キルギス)】8位(8選手出場)
1回戦 ●[0−2(0-5,TF0-6=2:00)]Murodjon Tuichiev(タジギスタン)

 

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