【特集】世界選手権へかける(9)…男子フリースタイル66kg級・米満達弘(自衛隊)【2010年8月17日】

(文=保高幸子)


 昨年の世界選手権で、肩の故障を抱えながらも日本男子チーム唯一のメダルを獲得し、今年はさらに上位を期待されるフリースタイル66kg級の米満達弘(自衛隊=左写真)。両スタイル軽量級でのメダルが複数期待されている今年、最も金メダルを期待されている1人だ。米満本人の視線の先にも金メダルしか見えていない。

 昨年の世界選手権は、直前の合宿で痛めた肩の痛みを抱えながらの闘いだった。それでも「試合中は痛みを忘れていました」と、攻撃の手を休めなかった米満の強さと、勝ち取ったメダルには価値があった。その勢いで12月の全日本選手権でも勝って天皇杯の栄誉も、と思われた。しかし、けがが思ったより長引き、治療に専念することとなった。半年間マット練習が全くできな かった。

■治療に専念した半年間で、新たな飛躍が

 治療中は四股(しこ)を踏んだり、体幹や心肺機能を高めるレスリング以外のトレーニングにいそしむこととなった。「初めは体幹トレーニングに挑戦しても全くダメだったんです。けががなかったら、やっていなかったです。こういうトレーニングができる状況になって、よかったです」と前向きにとらえることができた。

 そのおかげで体幹が強くなったことは、本人が一番自覚している。さらに「試合が始まったとたんにタックルに入ることしか考えていなかったです」と振り返るテクニック不足についても、マットで練習ができるようになってからは、苦手だった組み手を重点的にやり、フェイントや崩しを習得してきた。

 満を持して迎えた今年5月の全日本選抜選手権(世界選手権代表選考会)。世界選手権以来、約8ヶ月ぶりの試合だった。「不安もあったけど、フレッシュな気持ちでできました。いつもと違うワクワク感もありました」という。組み合わせはこれ以上ないほど厳しかった。優勝するのは、佐藤吏(ALSOK綜合警備保障)、小島豪臣(K-POWERS)、池松和彦(池松オリンピックレスリングアカデミー)の歴代全日本王者と当たる組み合わせ。

 さらぬプレーオフも勝たなければならない。しかし、そんな過酷なトーナメントで、すべてに快勝できた
(右写真=プレーオフでも全日本王者の池松に快勝)。特に、過去全敗で以前は苦手意識を持っていたという小島相手に自分のレスリングを貫いて勝てたことは大きい。「もう勝てないのかな」と思った時期もあったというが、今年は苦手意識や先入観を捨て、誰が相手でも自分の練習を出し切ろうと思っていた。「今年こそは本当の日本一だと思います」と、大きな自信がついた。あの仕上がりを見れば誰もが納得するだろう。

■「最終日に君が代を聴かせますよ!」…力強く宣言

 世界選手権に向けても、「ライバルはいません。自分の技を出せれば勝てる」と自信満々。得意のタックルだけでなく、そこにつなげるためのフェイント、崩しが今の米満の武器だ。そして、昨年負けたラスル・ジュカエフ(ロシア)との4回戦を振り返ると、「途中で、負けるかもしれないという考えがよぎってしまった」という。肩のけがとともに、敗因だと感じた。

 それは小島戦でも、逆の意味で証明された。「意識の持ち方は大切だと思います。だから、今年は絶対に諦めるということはしません」と話す。今年の世界選手権では、持ち前のチャレンジ精神を発揮しそう。「絶対に去年よりもいい成績を残しますよ。勝負できると思います」と、自分のペースを貫くことが強さだと知った
(左写真=昨年の世界メダリスト。今年、頂点に立つのは?)

 井上謙二コーチ、鈴木豊コーチという、自衛隊の練習でも全日本合宿でも、本気でスパーリングしてくれる存在がいることは大きい。昨年のデンマークでは初日に登場したが、今年は一転して最終日の日程。「最終日に君が代を聴かせますよ!」と明るく宣言する米満に気負いはない。2012年ロンドン五輪へと続く階段を、またひとつ上る姿に期待したい。


 米満達弘(よねみつ・たつひろ)=自衛隊、2年連続2度目の出場
 1986年8月5日、山梨県生まれ、24歳。山梨・韮崎工高〜拓大卒。高校時代は04年の全国高校グレコローマン選手権と国体グレコで優勝するが、フリースタイルではインターハイ2位が最高。拓大に進み、2年生の時(06年)にJOC杯ジュニアオリンピックで優勝し、世界ジュニア選手権に出場。同年度の全日本選手権でアテネ五輪5位の池松一彦を破るなどして2位に躍進。
 07年はヤシャ・ドク国際大会(トルコ)で2位に入賞するなど力をつけ、全日本学生選手権で優勝。全日本大学選手権は74kg級で2位。08年は世界学生選手権で優勝したあと、学生二冠(全日本学生選手権、全日本大学選手権)を制覇。全日本選手権で初優勝した。09年アジア選手権で2位のあと、世界選手権で銅メダルを獲得。けがの治療で約半年、マットを離れたが、10年の全日本選抜選手権で優勝。プレーオフに勝つ。168cm。



◎米満達弘の最近の国際大会成績

 
《2009年》
 
【9月:世界選手権(デンマーク)】=3位(34選手出場)
3決戦  ○[2−0(1-0,4-0)]Sushi Kumar(インド)
敗復戦 ○[2−0(3-0,2-0)]Jung Young-Ho(鄭栄鎬=韓国)
4回戦  ●[0−2(0-1=2:04,1-3)]Rasul Djukaev(ロシア)
3回戦  ○[2−0(1-0,2-0)]Gergo Woller(ハンガリー)
2回戦  ○[2−0(2-0,2-0)]Zhirair Hovhannisyan(アルメニア)
1回戦   BYE

 
【5月:アジア選手権(タイ)】=2位(18選手出場)
決  勝 ●[0−2(1-1,0-3)]Mehdi Taghavi Kermani(イラン)
準決勝 ○[2−1(1-2,3-1,6-0)]Kim Dai-sung(韓国)
3回戦  ○[2−0(2-0,2-0)]Bator Bazarov(キルギス)
2回戦  ○[2−0(5-1,6-0)]Jilibu Hei(中国)
1回戦   BYE

 
【2月:ダン・コロフ国際大会(ブルガリア)】=9位(23選手出場)
2回戦 ●[0−2(0-1=0:08,1-1)]Muhammed Ilkan(トルコ)
1回戦 ○[2−0(1-0,TF6-0=0:31)]Nikolay Kurtev(ブルガリア)
  
 
【2月:ヤシャ・ドク国際大会(トルコ)】=優勝(30選手出場)
決  勝 ○[2−0(1-0、TF6-0)]Okay Koksal(トルコ)
準決勝 ○[2−0(3-1,4-2)]Unurbatov(モンゴル)
3回戦  ○[2−0(1-0,1-0)]Haisian Garcia(カナダ)
2回戦  ○[2−0(2-0,4-0)]Ishan Capas(トルコ)
1回戦  ○[2−0(3-0,4-2)]Yusuf Beneku(トルコ)

 
《2008年》
 
【7月:世界学生選手権(ギリシャ)】=優勝(12選手出場)
決  勝 ○[2−1(5-DB,1-0,4-3)]Yasin Bolat(トルコ) 
準決勝 ○[フォール、3P0:49(0-1,2-1,4-0)]Gergo Woller(ハンガリー)
2回戦  ○[2−0(1-0,2-0)]Josh Churella(米国)
1回戦  ○[2−0(5-0,4-0)]Dmitry Shadrin(ロシア)

 
【2月:デーブ・シュルツ国際大会(米国)】=5位
敗復戦 ●[2−1(0-1,1-0,0-1)]Batzorig Buyanjav(モンゴル)
準決勝 ●[2−1(4-3,TF6-0,TF6-0)]Trent Paulson(米国)
2回戦  ○[途中棄権、2P]William Zadick(米国)
1回戦   BYE

 
《2007年》
 【2月:ヤシャ・ドク国際大会】
=2位(27選手出場)
決  勝 ●[0−2(0-3、TF0-7=0:51]Ramazan Sahin(トルコ)
準決勝 ○[2−0(4-2,TF9-5=1:34)]Zack Esposito(米国)
3回戦  ○[2−0(1-0,2-1)]Kuyucu Mustafa(トルコ)
2回戦  ○[フォール、3P0:18(0-4,5-2,F3-0)]Martin Emilov(ブルガリア)
1回戦  BYE

 

inserted by FC2 system