【特集】世界選手権へかける(10)…男子グレコローマン66kg級・藤村義(自衛隊)【2010年8月21日】

(文=保高幸子)


 「いつのまにか若手からベテランになっていました」という男子グレコローマン66kg級の藤村義(自衛隊=左写真)。今回の男子の世界選手権代表選手の中では、フリースタイル74kg級の長島和幸(クリナップ)と並んで男子チーム最年長になる。

 昨年の世界選手権(デンマーク)では、初出場ながら8位入賞。グレコローマン勢では60kg級の松本隆太郎(群馬ヤクルト販売)とともにチーム最高の成績を残した。本人は「たまたまです」と言うが、メダル獲得のチャンスもある実力を証明して見せたことに変わりはない。事実、藤村も「今年は一番上を目指す」と意気込んでいる。

■「相手を10ばてさせれば、自分は9ばてていても勝てる」

 今年の代表権獲得は順風満帆だったわけではない。世界選手権のあとの12月の全日本選手権では、同門のライバルである清水博之(自衛隊)に決勝で敗れてしまった。けががあり、力を出し切ることができなかった。しかし、その時は「自分の調整ミス。今回はしょうがない。(翌年5月の)全日本選抜選手権にかけよう」との気持ちの切り替えができた。

 けがが完治してからは、「外国人とやる上で一番重要」という相手をばてさせる練習をやってきた。藤村の目は、日本代表権を取る前から国内を飛び越えてすでに世界を見据えていた。「以前から10ラウンドのスパーリングなどやっていたけど、最近は意識してできるようになりました」。その成果は、まず3月の「ハンガリーカップ」に表れた。

 「体力的には変わっていなかった」というが、5試合に勝って優勝
(右写真)。「強かった」というロシア選手にも「バテさせるために組み負けないようにしたら、相手が焦りました」と。大きな自信を得た。「相手を10ばてさせれば、自分は9ばてていても勝てる。手応えがありました」と語る藤村。やっていることが正しいと確信できたのは大きい。その勢いで5月の全日本選抜選手権では、決勝とプレーオフで清水を制し、代表権を勝ち取った。

■目標は「もちろん金メダル。最低でも3位入賞」

 昨年の世界選手権の2回戦で当たったファリド・マンスロフ(アゼルバイジャン=2007・09年世界王者)以外の選手に対しては、「勝てないかも、と感じたことはないです」と言う。ファリド・マンスロフは、昨年の世界一を花道に引退したとの情報があり、今年は出場してこない可能性がある。藤村の活躍の舞台が大きくなったと言ってもいい。

 全日本チームの強化副委員長でもある自衛隊の伊藤広道監督には、スタンド攻撃の中の細かい技術を教わっている。元木康年コーチは「普通の選手なら逃げ出すような辛ことでも、藤村は根気よくコツコツやる努力型。だから身につくんですよ」と評価。伊藤監督、元木コーチとも、自衛隊でも全日本合宿でも常に一貫して見てもらえることが、研究熱心で努力型の藤村にプラスに働いているのだろう。

 慢性のひじの故障に心配はあるが、世界選手権には調子を合わせるつもりだ。チームでは最年長でありながら、リーダータイプではなく、優しく見守るタイプの藤村。しかし「世界での目標はもちろん金メダルです。最低でも3位入賞」とさらっと言う目はベテランの自信にあふれている
(左写真=逆転で日本代表権獲得も、喜びの表情はまったくなかった藤村)

 リフトとローリングの組み合わせが得意な藤村だけに、「できれば派手な技で勝ちたいですね」との欲もある。スタンドで攻めてポイントを取り、近年少なくなっているリフト技をも繰り出す…。そんなメダル獲得を見られるとしたら、王国日本復活を導くのは藤村かもしれない。


 藤村義(ふじむら・つとむ)=自衛隊、2年連続2度目の出場
 1982年3月28日、山口県生まれ、28歳。山口・田布施農高〜徳山大卒。高校時代は全国大会無冠だったが、徳山大で西日本学生選手権2度優勝。ほかに03年の全日本大学グレコローマン選手権で2位。自衛隊に進み、05年ユニバーシアード代表、06年アジア選手権代表と実力をつける。
 06年全日本選手権3位、07年全日本選抜選手権2位など、日本一にあと一歩と迫った。07年11月にはNYACホリデー・オープンで優勝し、08年北京五輪予選出場の機会も得たが、手が届かなかった。08年全日本選手権で初優勝を達成。09年世界選手権は8位に入賞した。同年の全日本選手権では2位となったが、今年は世界選手権の代表権を獲得。174cm。



◎藤村義の最近の国際大会成績

 《2010年》
 
【3月:ハンガリーカップ(ハンガリー)】優勝(32選手出場)
決  勝 ○[2−1(0-1,1-0,3-0)]Mikhail Semenov(ベラルーシ)
準決勝 ○[2−0(1-0,1-0)]Ambako Vachadze(ロシア)
3回戦  ○[2−1(1-0,3-0)]Rustem Emir Amzaev(ベラルーシ)
2回戦  ○[2−0(2-0,5-0)]Maarius Thommesen(ノルウェー)
1回戦  ○[2−0(1-0,TF8-0)]Danijel Janecic(クロアチア)

 《2009年》
 
【9月:世界選手権(デンマーク)】8位(40選手出場)
敗復2 ●[0−2(0-1,1-3)]Sasun Ghambaryan(アルメニア)
敗復1 ○[2−0(1-0,TF6-0=2:00)]Ismael Navarro Sanchez(スペイン)
2回戦 ●[0−2(0-1,0-2)]Farid Mansurov(アゼルバイジャン)
1回戦 ○[2−1(3-B,1-0,3-0)]Sylwester Charzewski(ポーランド)

 
【7月:ゴールデンGP決勝大会(アゼルバイジャン)】11位(20選手出場)
敗復戦 ●[1−2(0-3,1-0,0-1)]Lorinjs Tamas(ハンガリー)
2回戦  ●[1−2(0-3,1-0,0-1)]Farid Mansurov(アゼルバイジャン)
1回戦  BYE

 
【5月:アジア選手権(タイ)】5位(14選手出場)
3決戦  ●[0−2(0-1,0-2)]Abdevali Saeid(イラン)
準決勝 ●[1−2(2-3,1-0,5-5)]Eom Hyeok(韓国)
2回戦  ○[2−0(3-2,1-0)]Sultan Muktarov(キルギス)
1回戦  ○[2−0(2-0,6-0)]AL Marafi Mohamed salah abdelraman(ヨルダン)
  
 
【3月:ハンガリーカップ(ハンガリー)】5位(25選手出場)
3決戦  ●[0−2(0-2,0-1)]Ionut Panait (ルマニア)
準決勝 ●[1−2(2-2,0-4,0-1)]Manuchar Tskhadaia (グルジア)
3回戦  ○[フォール、2P=1:57(1-2,F5-0)]清水博之(自衛隊)
2回戦  ○[2−1(0-1,1-0, 2-0)]Mikhail Siamionav (ベラルーシ)
1回戦  ○[2−0(1-0,3-0)]Tomasz Swierk(ポーランド)

 【2月:ニコラ・ペトロフ国際大会(ブルガリア)】12位(20選手出場) 
1回戦 ●[1−2(TF0-6=1:59,2-0,0-2)]Osman Kose(トルコ)
  
 《2008年》
 
【5月:五輪予選第1戦(イタリア)】19位(31選手出場)
2回戦 ●[1−2(1-@,3-0,0-3)]Tiziano Corriga(イタリア)
1回戦  BYE
    
 【3月:ハンガリー・カップ(ハンガリー)】
3回戦 ●[0−2(0-3,1-6)]Steeve Guenot(フランス)
2回戦 ○[2−0(2-1, 6-0=1:00)]Faruk Sahin(米国)
1回戦  BYE

 《2007年》
 
【11月:NYACオープン国際大会(米国)】優勝(16選手出場)
決 勝  ○[警告]Yesid Alfredo Meneses(コロンビア)
準決勝 ○[2−1(1-2,1-1,1-1)]Marcel Cooper(米国)
2回戦  ○[2−0(1-1,3-0)]Brandon Mcnabb(米国)
1回戦  ○[2−0(3-0,1-1)]Mark Rial(米国)


 

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