【特集】世界選手権へかける(15)…女子72kg級・浜口京子(ジャパンビバレッジ)【2010年8月27日】

(文=布施鋼治)


 昨年12月の全日本選手権で、本格復帰を果たした女子72kg級の浜口京子(ジャパンビバレッジ=左写真)が、2年ぶりに世界選手権へ臨む。8月21日の公開練習(東京・味の素トレーニングセンター)の後、浜口は落ち着いた面持ちで現状を語った。「毎日いい練習を積むことができました。いまは世界選手権に向けて最終段階の準備に入っているところです」−。

■世界選手権のデビューは、15年前のモスクワ

 浜口にとって、今回の世界選手権が行われるモスクワは思い出の地だ。1995年に初めて世界選手権に出場した時の舞台が、この都市だった。当時、17歳の日本代表だった。

 「世界でデビューさせてもらったという意味で、モスクワは私の原点です。緊張して何も分からず、何回も投げられてマットを降りた記憶があります。終わった時に、『世界の壁はなんて厚いんだろう』と思いました(結果は2戦2敗で13位)。それくらい対戦相手が強かった。試合が終わった後は泣いていました。昔も今も私は負けず嫌いなので」
(右写真=1995年のモスクワ世界選手権で闘う浜口)

 その2年後、浜口の悔し涙と負けず嫌いな性格は実を結ぶ。3度目の世界選手権(フランス)で、世界V5の劉東風(中国)を準決勝フォール勝ちするなどし、初優勝を果たした。その後の活躍は言わずもがな。2度のオリンピックで2つの胴メダルを獲得した。

 そんな浜口に対して、全日本チームの栄和人監督(至学館大教)が今回打ち出した方針は“自由放任”だった。「今まで、ああしろ、こうしろと、いろいろな技術を教えてきたけど、彼女は慌てたり緊張したりしたら、実力を発揮できないタイプ。だから、今回はある意味で自由にやらせることにしました。たとえポイントが0−0でクリンチになったとしても、落ち着いて試合することができれば大崩れすることはないと思う」

 特別待遇ではない。その方がよりよい結果が出ると読んだうえでの決断だ。幸いガッツがある試合運びは昔と変わりない。今年3月、中国・南京で行なわれた女子ワールドカップでは、大会初日にろっ骨を負傷したにもかかわらず、翌日も大会に出場して競り勝ったことが、それを如実に表している。

■3月のワールドカップに比べると、「しっかり準備ができている」−

 ワールドカップに出場した時と今の気持ちを比べたら? 「今の方がしっかり準備できていると思います。自分を追い込んだ練習もできたし、技術面でもいろいろ向上できた。全く違う状態で臨めるでしょうね」という答。「具体的に技術面ではどこが変わったのか」という質問が飛ぶと、浜口は「全てにおいて安定してきました」と答えた。「頭の中で考えている自分の動きと実際の動きが一致しているんですよ」とも
(左写真=2年ぶりの世界選手権へ燃える浜口)

 ただ、女子レスリング界は過渡期。浜口が休養している間に世界の勢力図は大きく変わった。その件について突っ込むと、彼女は落ち着いて答えた。「ビデオ研究はしています」−。

 残された調整期間は少ない。浜口がやろうとしていることははっきりしている。「ここまできたら体力どうこうより、メンタル面をいい方向にもっていきたい」ということ。自由放任策を味方につけたうえで、浜口はメンタル面でもテクニック面でも一皮むけた姿を、モスクワで披露することができるだろうか。思い出の地で、京子スマイルを−。


 浜口京子(はまぐち・きょうこ)=ジャパンビバレッジ、2年ぶり14度目の出場(五輪を合わせ16度目の出場)
 1978年1月11日、東京都生まれ。32歳。ボディビルからレスリングへ。96年にアジア選手権70kg級で優勝。翌年、75kg級で世界一に輝き、99年まで3連覇。00年の世界選手権は3位に終わり、01年も4位で世界一奪還ならなかったかが、02年に返り咲いた。同年はほかにアジア大会、ワールドカップでも優勝。
 03年に5度目の世界一へ輝いた。04年はアテネ五輪で銅メダルを獲得し、全日本選手権で9度目の優勝を飾った。05・06年は世界選手権2位。07年はアジア選手権で優勝したものの、世界選手権は9位。08年はアジア選手権優勝、北京五輪と世界選手権でともに3位。09年前半は休養し、8月のポーランド・オープンで復帰(5位)。同年の全日本選手権で優勝した。10年はワールドカップで個人3位のあと、世界選手権代表に返り咲いた。170cm。



◎浜口京子の最近の国際大会成績

 
《2010年》
 
【3月:ワールドカップ=団体戦(中国)】個人3位
3位決定戦 ○[2−1(0-1,3-2,2-0)]Nataliia Palamarchuk(ウクライナ)
予選3回戦 ●[0−2(0-1=2:02,0-1=2:30]Ohenewa Akuffo(カナダ)
予選2回戦 ●[フォール、1P0:35(F0-3)]Natalya Vorobeva(ロシア)
予選1回戦 ○[2−0(3-2,2-0) ]Hong Yang(洪雁=中国)

 《2009年》
 【8月:ポーランド・オープン】5位(16選手出場)
3決戦  ●[0−2(1-3,0-2=2:16)]Guzel Manurova(ロシア)
準決勝 ●[0−2(TF0-6=1:12,2-4)]Stanka Zlateva(ブルガリア)
2回戦  ○[0−2(1-0,2-0)]Mariana Gastil(オーストリア)
1回戦  ○[2−0(2-0,1-0)]Svitlana Sayenko(ウクライナ)

 《2008年》
 
【10月:世界女子選手権(東京)】3位(15選手出場)
3決戦  ○[2−1(0-1,1-0,1-0)]Burmaa Ochirbat(モンゴル)
準決勝 ●[0−2(1-4,1-1L) Hong Yan(洪雁=中国)
3回戦  ○[2−0(1-0,2-1)]Shynkarova.N(ベラルーシ)
2回戦  ○[フォール、2P1:26(0-1、F3-0)]Lee Stephany(米国)
1回戦   BYE

 【8月:北京五輪(中国)】3位(16選手出場)
3決戦  ○[2−0(3-0,3-1)]Ali Bernard(米国)
準決勝 ●[フォール、2P0:46(2-5、F3-0)]Wang Jiao(王嬌=中国)
2回戦  ○[フォール、2P1:19(1-0,4-0)]Rosangela Conceicao(ブラジル)
1回戦  ○[2−1(1-0,0-1,2-0=2:00]Elena Perepelkina(ロシア)

 
【3月:アジア選手権(韓国)】優勝(8選手出場)
決  勝 ○[2−0(1-0,1-0)]Burmaa Ochirbat(モンゴル)
準決勝 ○[フォール、1P0:16(4-0)]Hwang Eun Joo(韓国)
1回戦  ○[フォール、2P0:50(2-3,3-0)]Xu Qing(許晴=中国)

 《2007年》
 【9月:世界選手権(アゼルバイジャン)】9位(31選手出場)
敗復2 ●[フォール、2P0:45(2-0,F0-4)]Olga Zhanibekova(カザフスタン)
敗復1 ○[2−0(5-0,TF6-0=1:34)]S. Bentorki(フランス)
2回戦 ●[0−2(0-3,1-3)]Stanka Zlateva(ブルガリア)
1回戦 ○[2−0(2-1,1-0)]Laure Ali Annabel(カメルーン)

 
【5月:アジア選手権(キルギス)】優勝(8選手出場)
決  勝 ○[2−1(@-1,1-@,2-0)] Olga janibekova(カザフスタン)
準決勝 ○[2−1(1-0=2:09,0-1=2:06,1-0=2:16)] Wang Xu(王旭=中国)
1回戦  ○[フォール、1P2:00(F6-0)] Mariya Orlova(ウズベキスタン)


 

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