2011年全日本チーム記事一覧


【特集】金メダルへのシナリオが始まった! フリー55s級・稲葉泰弘(警視庁)
【2011年5月20日】




 【タシュケント(ウズベキスタン)、増渕由気子】2011年のアジア選手権が5月19日、当地で開幕し、男子フリースタイル55s級の稲葉泰弘(警視庁)が銀メダルに輝いた。昨年は世界選手権(ロシア・モスクワ)とアジア大会(中国・広州)で銅メダルを獲得し、ナショナルチームの軽量級で最も安定した成績を残している。

 もっとも、昨年の銅メダルよりランクアップしたメダルだったが、稲葉は唇をかみ締めながら表彰台に上っていた。「銀メダルで悔しいです」。決勝戦の相手が、アジア大会の準決勝で負けている2009年世界王者のヤン・キョンイル(北朝鮮)だったことが、悔しさを倍増させていた。

 アジア大会ではヤンに完敗だった。左腕を捕まえられて何度も飛行機投げを食らい、大差で負けた。「試合が後手に回ってしまったので、今回は腕を取られないようにした」とヤンの対策も十分に練ってきた。

 組み手巧者の稲葉は、ヤンを有利にさせない組み手を展開。今回も先手を打つのはヤンだったが、組み手が不十分のため、稲葉も攻撃をブロックし、すきをみつけて、足をつかむなど反撃する見せ場を作った。

 1−2(0-1,1-0,0-5)のスコアを見れば、第2ピリオドまでは大接戦。だが、ヤンは足を取ると確実に得点へ結びつけるのだが、稲葉はタックルに入ってからの処理でもたつき、ヤンに切られてしまう場面が何度もあった。「入ってからの処理の仕方がまだ甘く、その後返されてしまった。(足を)取ってからの練習が必要です」と課題を明確にした。

 ヤンに2連敗を喫したが、稲葉に悲壮感はなかった。「今回やってみて、なぜ半年前のアジア大会で、あんなにやられたんだろうって不思議に思いました」。腕さえつかまなければヤンの飛行機投げは食らわい、と確信したことは、稲葉が進歩した証だろう。

■階段を一歩ずつ上るように成長 来年のロンドンでは遂に花開くか

 来年のロンドン五輪への代表レースは、今年の世界選手権代表に決まった湯元進一(自衛隊)が一歩リードしている状況。徹底したディフェンスから繰り出されるここ一番のパワー攻撃が世界トップクラスであることは間違いない。

 だが、稲葉には湯元にはない強みがある。田南部力監督(警視庁)は「組み手ができる。足の使い方もうまい。全体的に穴が少ない」と分析する。つまずいたいたことはすぐに克服する意思の強さも稲葉のいいところ。

 昨年12月の全日本選手権は、アジア大会銅メダルの凱旋試合として優勝を狙ったが、北京五輪銀の松永共広(ALSOK)に敗退し3位。しかし、4月の全日本選抜選手権の決勝では、その松永にリベンジして優勝を遂げて見せた。今大会もヤンに勝つことは叶わなかったが、接戦を展開し、「ヤンは苦手なタイプじゃない」と言い切った。

 メダルコレクターとして代表としての安心感がある一方で、「金メダルは取れない」という酷評もできる。だが、それは稲葉が五輪で金メダルを取るために神様が与えている金のシナリオなのかもしれない。世界選手権の代表権はこの秋に湯元進一が獲得してくるかもしれない。だが、そこからが稲葉の本当の戦いが始まる。

 

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