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【特集】ハングリー精神で日本代表奪還へ!…男子フリースタイル66kg級・小島豪臣(K-POWERS)
【2011年1月10日】


(文=保高幸子)



 昨年、日本の男子は世界選手権やアジア大会で軒並み好成績を残し、確固たる王国復活の兆しを世界に見せつけた。その中でも、フリースタイル66kg級は米満達弘(自衛隊)が広州アジア大会で2009年の世界チャンピオンを下して金メダルを獲得。2012年ロンドン五輪での金メダルを最も期待される階級の一つとなった。

 その米満に対戦成績で勝ち越している男がいる。それが小島豪臣(K-POWERS=
左写真)だ。12月の全日本選手権は第3ピリオドまでもつれながら惜敗。それでも対戦成績は4勝2敗(不戦勝を除く)だ。2009年世界選手権(デンマーク)銅メダルに続き、広州アジア大会で優勝したライバルを、どんな思いで見ていたのだろうか。

■全日本王者奪還のため、トルコに単独武者修業

 小島は前回の2006年アジア大会(カタール・ドーハ)に出場し銀メダルを獲得している。その大会のフリースタイルでは日本チーム最高位。日本のエースに君臨し、さらなる飛躍を期待されたが、肩の故障に見舞われたことをきっかけに、悲運にも低迷を続けていた。

 2010年は小島にとって復活の年とも言えた。ケガも治り、国体や米国遠征で調子を取り戻してきた
(右写真=10月初めの千葉国体で優勝した小島)。目指すは全日本王者奪還。

 12月の全日本選手権に向けて、小島は動いた。関係者のつてでトルコへ海外武者修行に行くことにしたのだ。「日本にいると誘惑が多い。集中するためにも、国外に出て外国の強い選手と練習したかったんです。自分で飛行機のチケットを取るのも、ひとりで乗り換えるのも初めてだったので、最初は緊張しました」。

 言葉もわからない土地での修行は心細かったに違いない。しかしそこは積極的な性格を活かし、レスラー同士のコミュニケーションで、「初日に仲良くなれた」という。

■練習量が短いトルコだが、メンタル面での強化に成果

 現地ではレスリングの練習が少なく、1ヶ月間の修行で思い出に残っていることと言えば、レスリング以外のこと。「レスリングの練習がとにかく短くて、バスケットボールを本気でやるんですよ。球技が苦手なので怒鳴られたりしながらやりました」と笑う。武者修行に行ったのだから、「がっかりしたのでは?」との問いに、「同時期にトルコにいた峯村亮(神奈川大職=グレコローマン55kg級)と練習したり、仲良くなったトルコ人の選手と自主練習したりしました。それに、日本の練習環境が恵まれてる事を知って、ハングリーな気持ちになれました」と答える。

 トルコは練習着も練習場もボロボロで、街も汚れていて薄暗く、シンナーを吸っている人々が目に入る。その環境を経験したことで、「メンタル的に強くなれた気がします。ロンドン五輪へ向けての気持ちを高める事ができました」と言う。日本のようにみっちり練習できなかったことへの不安に勝るほど、得たものは大きかった。

 全日本選手権の10日ほど前に帰国。満を持して臨んだ大会は、前年王者の池松和彦(池松オリンピックアカデミー)戦を含めて決勝まで危なげなく進み、迎えた決勝戦は、やはりライバルの米満との対戦となった。第1、第2ピリオドとも0−0で終わりクリンチ勝負。それぞれが優先権を得て、タックルからのテークダウンを決めてピリオドスコアは0−0
(左写真=第1ピリオドのクリンチを取った小島)。第3ピリオドを迎えた。

 ここが勝負だったが、残り30秒で米満のタックルでポイントを奪われ、そのまま終了。あと1歩のところで王座を逃した。「守ってしまった。1回も攻めていなかった。攻めないと世界では勝てない」と悔やむ。それでも「冷静に試合できるようになった」のは大きな成果だ。

■ライバル米満とともにロシア最高レベルの大会に出場

 今回は王座を逃したが、今年の世界選手権の日本代表を勝ち取る道はまだある。「4月の選抜(全日本選抜選手権)で優勝して、プレーオフも取りますよ」。強化の一環として、今月末にはロシア最高レベルの大会のヤリギン国際大会に米満と呉越同舟で出場する。「レベルの高い大会だし、よくても悪くても、課題は見つかるはずです」。その課題をしっかり強化すれば、と先を見据える。

 ライバル米満については、「あのタックルはすごい。だから、競い合ううちに自分のレスリングも磨かれると思います」と、世界に通じた実力を認め、挑戦者として燃えている。この2年ほどで追われる立場から追う立場になった。だが、そうなった時の小島の強さは計り知れない。(右写真:全日本合宿で練習する小島=右=と米満)

 海外武者修行により、国内では得られないメンタルの強さを身につけた小島の代表復帰への挑戦。そして、その先に続くロンドン五輪への物語が始まった。


 

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