2011年明治杯全日本選抜選手権記事一覧


【特集】国際大会連続メダルの実力、爆発するか…男子グレコローマン66kg級・清水博之(自衛隊)
【2011年4月21日】


(文・撮影=保高幸子)



 1990年代途中から低迷を続けていた日本レスリングは、ここ数年で大きく変わった。フリースタール軽量級は、今や「だれが出てもメダルが狙える」とまで言われるようになり、グレコローマン55kg級では難攻不落の世界王者を破る選手が出現。同60kg級も2007・10年に世界選手権銀メダルを手にした。

 グレコローマン66kg級も負けてはいない。世界選手権でのメダルこそないものの、2010年アジア大会で銅メダルを獲得した藤村義(自衛隊)、2008年北京五輪60kg級代表で階級を上げてきた笹本睦(ALSOK)、学生界で圧倒的な強さを見せ2010年全日本王者に輝いた岡本佑士(拓大クラブ)、そして2009年全日本王者の清水博之(自衛隊=
右写真)と、ハイレベルでの激戦模様を呈してきた。この厳しい闘いを勝ち抜いた選手なら、世界のメダルを手にする可能性が高くなる。

■昨年のアジア選手権惨敗の経験を生かして飛躍

 その中では、2009年世界8位に続くアジア大会銅メダルと国際大会で実績を残した藤村が頭一つ抜けるか、と思われたが、昨年末の全日本選手権では初戦で敗れ、今冬は海外遠征に行っていない。その遠征で結果を残したのが、自衛隊の後輩になる清水だ。3月のゴールデンGP予選「ハンガリー・グランプリ」で銀メダルの殊勲(
左下写真、撮影=ビル・メイ)。全日本選手権で笹本に敗れて上位進出を逃した不振を帳消しにするとともに、昨年10月の「サンキスト・オープン」(米国)での優勝に続く国際大会メダル獲得で勢いに乗っている。

 清水は、滋賀・日野高時代は全国大会ベスト8が最高。高卒で一般隊員として自衛隊に入隊し、教育を受けた後に体育学校に入校した。下積みから実力をつけ、2008年全日本選抜選手権では初めて先輩の藤村と対戦し、勝利を挙げた。

 「あの優勝で初めて世界を意識しました。次の2012年ロンドン五輪に出たい、と思いました」と話す清水。今まで何度か「レスリングをやめたい」と思った事がある。その度に高校時代の恩師に相談し、説得されて思いとどまった。初優勝の喜びは大きかった。「高校で実績がなくても、頑張り次第で五輪を目指せる、ということを見せたいです!」

 しかし、ただやみくもに頑張っただけではない。「昨年のアジア選手権(インド)では、外国人選手に対してグラウンド技が全くかからず、返せないし、逆に返されてばかりでした」と、敗者復活戦を含めた2試合で1ポイントも取れなかった。焦りを感じ、グラウンドをみっちり練習してきた。「(メダルを取った)両大会ではグラウンドで返すことができました」と自信がついた。国際大会での連続メダル獲得は、アジア選手権で得た苦い経験に基づいて練習を工夫した成果だ。

■被災地で頑張っている自衛隊員や被災者のために闘う!

 今年の世界選手権代表になるには、まず今回の全日本選抜選手権(同級は4月29日)で優勝し、全日本王者・岡本とのプレーオフにも勝たなくてはならない。清水には苦い思い出がある。昨年の日本代表争いでは、清水は一昨年の全日本王者であり、優勝すれば念願の世界選手権出場決定だった。

 しかし、決勝、プレーオフともに藤村に敗れてしまい、苦汁を飲んだ。「今度は僕が、同じことをすればいいだけです」−。あの経験があるからこそ、今そう思える。
(右写真:世界2位の松本隆太郎=右、60kg級=と世界選手権出場を誓う清水)

 東日本を襲った震災以来、自衛隊の仲間が救援・復興活動に参加している。「部隊の人間が被災地に赴いているのを見て、僕自身も被災地へ行って被災された方達を助けたいという思いがあります。私が今できることは、勝つことで仲間の励みになってもらうことであり、世界で活躍することで被災地を元気づけることです」という自衛隊員としての思いもある。 

 「プレッシャーはないです。常にチャレンジャーの気持ちです。とにかく勝ちにいきます」という清水。レスリングエリート達にはないハングリーさで世界の切符をもぎ取りに行く。

 

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