2011年明治杯全日本選抜選手権記事一覧


【特集】女子55s級は「吉田沙保里 VS 村田夏南子」の新時代へ突入か!?
【2011年5月9日】


(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)



 明治杯全日本選抜選手権の女子55s級は、吉田沙保里(ALSOK=右写真)のV10で幕を下ろした(女子の前身の大会であるクイーンズカップ&全日本女子選手権を含む)。この優勝により9月の世界選手権(トルコ)の代表が決定。メダルを獲得し、12月の全日本選手権で優勝すれば、来年のロンドン五輪代表に決定する。五輪V3へ順風満帆のスタートだ。

 2004年アテネ五輪では、日本代表をかけて世界4度優勝、1階級上の世界チャンピオンの山本聖子(スポーツビズ)との闘いがあった。2008年北京五輪では1階級下の世界チャンピオンの坂本日登美(自衛隊)と激突した。それに比べると、ロンドン五輪に向けての国内戦は、55s級で2番手の実力を持つ松川知華子(ジャパンビバレッジ)に常に快勝し、「国内に目標がない―」という状況が続いていた。

■吉田から1ポイントを奪った村田夏南子

 そこに“ライバル”として名乗りを挙げたのが、JOCアカデミーが満を持して送り込んだ村田夏南子(東京・安部学院高)だ。中学までは柔道選手で、高校から本格的にレスリングに転向。わずか1年で、JOC杯ジュニアオリンピックのジュニア59s級で優勝。キッズあがりで2009年アジア選手権優勝の伊藤友莉香(環太平洋大)を破る殊勲を達成した。ロンドン五輪を見据えて、昨年12月の全日本選手権から55s級にシフトチェンジ。今年1月にはロシア最高レベルの国際大会「ヤリギン国際大会」で優勝を果たした大物だ。

 村田は第2シードの松川を破って決勝に進出。吉田との試合結果だけを見れば、0−2(1-5,0-5)と大差がついたが、第1ピリオドに吉田からポイントを奪い
(左写真)、第2ピリオドも完全に仰向けに押さえ込まれ、フォールの体勢に追い込まれながらもブリッジで逃げるなど、会場を大いに沸かせた。

 10歳以上も年下の新鋭・村田に対し、吉田は「最後の最後まであきらめず、ねちっこい。力も強いと感じた。もっともっと練習すれば、レスリングが変わってくる」と評価し、若手の台頭には「うれしいです。次は1点取られないようにします」と笑顔だった。その表情は、追われる立場としての焦りは微塵も感じられず、むしろ、「国内での目標」ができて本当にうれしそうだった。

■吉田−村田が、ロンドン五輪の日本代表争いのハイライトとなるか?

 3歳からレスリングを始め、キッズあがりの選手の真骨頂である吉田に対して、村田は柔道から転向して今年で3年目という“転向型”。育った畑が違うことがわかりやすいほど作戦に反映されていた。

 吉田「(村田は)柔道をやっていたので、右腕を取られると投げ技が怖い」−。村田「柔道技を出したかったが、組ませてもらえなく、吉田さんのタックルに惑わされてしまった」−。

 それで0−2(1-5,0-5)の結果だったことを踏まえると、今大会は五輪V2の吉田との経験値の差が勝負を分けたと言える
(右写真=第2ピリオド、フォールの体勢に追い込んだ吉田だが、村田が粘った)

 北京五輪の時は、五輪前年の世界選手権で金メダルを取れば、代表が決まったも同然だった。だが、ロンドン五輪へは前年の世界選手権の成績に加えて、その後の国内戦(全日本選手権、場合によっては同選手権と全日本選抜選手権)での優勝が必須になった。要するに、村田やほかの選手にも、まだ吉田に挑戦するチャンスが残っている。

 村田はレスリングを始めて丸2年。12月の全日本選手権までには一段と成長するだろう。吉田VS村田が、ロンドン五輪の日本代表争いのハイライトとなるのだろうか−。

 

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