2011年全日本チーム記事一覧


【特集】攻撃あるのみのスタイルでブレークなるか…男子フリースタイル55kg級・富田和秀(自衛隊)
【2011年6月11日】


(文=増渕由気子)



 2004年アテネ五輪で田南部力(警視庁)が銅メダルを獲得し、2008年北京五輪で松永共広(ALSOK)が銀メダルを取った男子フリースタイル55kg級は、2012年ロンドン五輪へ向けて、国内の層は厚くなるばかり。今年の世界選手権代表は湯元進一(自衛隊)に決まったが、昨年世界とアジアで銅メダルを獲得し、全日本選抜選手権でも優勝した稲葉泰弘(警視庁)のほか、休養から復帰した松永も全日本選手権、全日本選抜選手権と決勝に駒を進め変わらぬ実力をアピールした。

 他に、全日本学生選手権2連覇の守田泰弘(山口県協会)が社会人王者に成長する一方、ジュニア世代にも、世界ジュニア代表の森下史崇(日体大)や、昨年ユース五輪金メダルの高橋侑希(三重・いなべ総合)などスター選手が勢ぞろい。し烈な日本代表争いが必至の状況だ。

 この中に名前を連ねたいのが富田和秀(自衛隊=
右写真)だ。吉田沙保里(ALSOK)と同じ三重・一志ジュニア教室出身。九州の強豪、鹿児島・鹿屋中央高を経て大東大へ進み、2007年全日本学生選手権で2位の成績。2009年は全日本社会人チャンピオンにもなった。大東大時代の恩師・藤沢信雄監督が「教科書のようなレスリングをする」と評するように、基本に忠実な無駄のないレスリングが特徴だ。

■ステップになるはずだった昨シーズンからまさかの不調

 2009年は全日本選抜選手権、全日本選手権ともに3位に入り、2010年の全日本選抜選手権では、準々決勝で松永と大接戦の末に1−2で敗れるまでに健闘
(左下写真)。あとは稲葉や湯元などトップ選手を食うだけのポジションにつけたが、昨シーズンの後半から富田はまさかの大ブレーキ。

 第1シードに名を連ねた千葉国体は初戦で敗退。先日の全日本選抜選手権も1回戦で黒星を喫してしまった。両試合ともに相手は若手の大学生だった。「守りが下手なくせに受けに回ってしまった。負ける時は、いつも相手に合わせたレスリングをしてしまいます」と肩を落とす。

 若手相手にふがいない試合が続いた富田は、今年の全日本選抜選手権の試合後、「正直、辞めようと思った」と引退を意識した。だが、同門の頑張りが富田の思いをとどまらせた。同大会で男子フリースタイル74kg級の高橋龍太が29歳にして悲願の初優勝。プレーオフも制して初の世界代表を決め、直後のアジア選手権(ウズベキスタン)では日本代表デビューも果たした。「続けていれば、いいこともあるんだな…」。勇気をもらった富田は、体育学校で練習を続けることを選択した。

 高橋はナショナルチーム最年長に加えて個性的な性格でマスコミ陣から大人気。6月4日の全日本合宿の公開練習では多くの記者に囲まれ、話が尽きなかったほど。やっと報われた高橋の姿を見て、富田に大きなエネルギーが湧いてきた。

■真っ直ぐすぎるレスリングが課題 勝負師の力を伸ばせるか?

 富田が高橋に続くブレークを果たすには、必要なものは何か。恩師の藤沢監督は、「少し基本に忠実というか正直すぎるかもしれない。相手が虚を突かれるようなトリッキーな動きがあれば」と分析。

 富田自身も「もっと大雑把にレスリングをしたり、フェイントなど相手を誘うような動きをしてもいいんじゃないかとアドバイスをされます」と話すように、試合の組み立てや勝負勘を磨くのが課題のひとつだ。
(右写真=2007年全日本学生選手権決勝で稲葉泰弘と闘う富田)

 もっとも、克服すべき点は気持ち。「松永さんのような格上の選手の場合は、開き直って思い切った試合ができるんですが、(同期の)稲葉選手のような相手だと弱気になってしまい、若手だと受けに回ってしまう」。どんな相手でも一志ジュニアで培った持ち前の超攻撃レスリングを展開できるかが、ブレ−クのカギだ。

 復活プランはできている。7月の全日本社会人選手権で出直しを図り、10月の国体をステップとして12月の全日本選手権で優勝−。「コツコツ、1試合1試合頑張っていきたい」。積み上げていく努力が報われることを信じて、富田が復活の序章を歩き出した。


 

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