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【特集】世界選手権へかける(3)…男子フリースタイル84kg級・松本真也(警視庁)
【2011年8月14日】


(文=樋口郁夫)



 史上3人目の大会3連覇が達成された今夏のインターハイ。1年生の時から勝ち続ける3連覇は、2002年の松本真也(京都・網野=現警視庁、右写真)以来の快挙となる。その松本は、来月の世界選手権の男子フリースタイル84kg級に出場し、ロンドン五輪の出場権獲得を目指す。

 高校時代の松本は、それまでの高校レスリング界のあらゆる記録を塗り替えた。インターハイV3のみならず、全国高校選抜大会2連覇(注・この大会は3度は出場できない)、国体3連覇、JOCジュニアオリンピック・カデット2連覇およびアジア・カデット選手権2連覇…。

 中学時代にも全国大会3連覇を達成している。中学から高校の6年間にわたって全国一を続けた選手は松本以外にはいない。日大でも4年間、全日本学生選手権か全日本大学選手権のどちらか、または両方を取っている。輝かしい過去を持つ松本だが、自分以来のインターハイ3連覇の選手が出現した今、はっきりと言う。「昔のことで自分の名前が出てきてもね…。ありがたいとは思いますけど、過去の栄光は捨てました。大切なのはこれからです」−。

■2009年とは違う今年の世界選手権の緊張感

 世界選手権への出場は、北京五輪翌年の2009年(デンマーク)以来2年ぶり3度目
(左写真=2009年大会で闘う松本)。五輪翌年の大会というのは休養する強豪選手も多く、最終的な目標は3年後ということもあって、それほど緊迫したムードはない。対して五輪前年は、五輪出場資格がかかっており、同じ世界選手権でも緊張度は大きく違う。松本も「周囲の期待も違いますね」と話し、その違いを感じている。

 “五輪まで闘いが続く”という現実にも向き合わねばならない。五輪前年以外の世界選手権は、ある意味でそこがひとつの目標。それを終えれば心身をリセットし、新たに翌年の世界選手権を目標に再スタートとなる。けががあれば時間をかけて治すこともできる。今回は世界選手権で五輪出場資格を獲得しても、3ヶ月後には国内での闘いに挑まなければならない。

 「そう考えると、徐々にプレッシャーというものを感じてきます」。重量級は世界で厳しい闘いをしいられるという事実も松本にのしかかってくるが、「アテネ五輪では横山(秀和)先生が出場しています。絶対に出るんだ、という気持ちで毎日の練習に取り組んでいます」と言う。

■年下の選手に敗れて高い鼻は折れたが、心は折れなかった

 並はずれた成績を残した高校時代、松本は「アテネ五輪には出られるかな…。それが駄目でも北京五輪には…、という気持ちでしたね」と振り返る。だが現実は厳しかった。大学王者となり、世界選手権やアジア大会の代表になることはできたが、五輪には手が届かなかった。

 中学時代からエリートとして歩んだ松本にとって、大きなつまずきは2つ経験している。ひとつは北京五輪出場を逃したこと、もうひとつは昨年、年下の松本篤史(現ALSOK)に敗れて日本代表を逃したことだ。
(右写真=2010年全日本選抜選手権で松本篤に連敗)

 前者の壁は先輩の鈴木豊(自衛隊)だったが、後者は年下選手に敗れての屈辱。磯川孝生(徳山大職=96kg級で世界選手権出場)など同期の人間に敗れたことはあっても、年下相手は初めての屈辱だった。

 「奢り(おごり)があったかもしれませんね。まあ、自分の糧になっていますよ」。今でこそ照れ笑いを浮かべて振り返るが、北京五輪出場を逃した以上のショックがあったのは想像に難くない。「すぐには立ち上がれませんでした」と言う。

 しかし「高い鼻は折れましたけど、気持ちは折れませんでした」とも。その要因となったのが、日大に進んだ時、赤石光生コーチから言われた「エリートと思っているんだったら、帰った方がいいよ」という言葉だった。その言葉が本当だったことを感じたことで、再起のエネルギーが出てきた。

 再起のためには、練習しかない。「(松本篤みたいな)差してくるタイプは苦手でした。苦手だから、どうしても避けていた。それじゃあダメだったんです」。同じ警視庁の選手でグレコローマン96kg級の山本雄資を相手に、差してくる相手の対策を練る毎日。苦しい1年だったが、ここを乗り越えたことで、また世界への道が開けた。

■国際大会を十分に積んでの世界選手権

 松本篤は昨年、世界選手権でもアジア大会でも結果を出すことができなかった。「自分に勝った人間が世界で全く勝てない…。世界における自分の実力も分かって、悔しさも感じました」。松本篤にリベンジを果たしても喜びはない。その向こうが目標だからだ。

 2年ぶりの世界選手権に挑むにあたり、前回と違うのは国際経験を多く積めていることだ。前回は2年半ぶりの国際大会であり、戸惑うことが多かった。今回は、昨年のアジア選手権(インド)で銅メダルを取り、この冬は米国で「デーブ・シュルツ国際大会」に出て、5月にはアジア選手権(ウズベキスタン)出場と、国際大会の経験を多く積んで外国選手相手にいろんなことを学んできた。
(左写真=全日本合宿で練習する松本)

 「組み手や崩しがなければ外国選手には通じません」。感覚では分かっていても、実際に経験しなければ本当に分かったことになはならい。はっきりした課題をつかみ、練習を積んでいる。大きなつまずきを乗り越えた事実も頼もしいし、新婚ということも発奮材料になる。「人間、守るものがあると強くなると言われますからね」−。

 世界選手権までの間、新妻を置き去りにしなければならない辛さはあるが、五輪出場資格という最高の“お土産”を目指し、最後の追い込みにかける。




松本真也(まつもと・しんや=警視庁)
 1984年7月16日、京都府生まれ、27歳。京都・網野高〜日大卒。京都・網野中時代に3年連続(97〜99年)で全国大会優勝。高校時代の00〜02年に全国高校選抜大会2度、インターハイと国体を各3度勝ち、タイトルを総なめにした。高校8冠王は史上初。00・01年はアジア・カデット選手権でも勝った。日大1年の03年に全日本大学選手権で勝ち、翌04年は学生二冠王へ。この間、03年世界ジュニア選手権へも出場。06年に全日本選抜選手権で優勝し、世界選手権に出場して10位。08年北京五輪出場は逃す。201年にはアジア選手権で銅メダルを獲得した。171cm。



◎松本真也の最近の国際大会成績


 《2011年》

 
【5月:アジア選手権(ウズベキスタン)】10位(10選手出場)
2回戦 ●[0−2(0-3、TF0-6)]Yusup Abdusalomov(タジギスタン)
1回戦  BYE

 
【2月:デーブ・シュルツ国際大会(米国)】5位(21選手出場)
5・6決戦 ○[2−0(1-0,1-0)]Dejan Bogdanov(マケドニア)
敗復戦  ●[1−2(0-3,2-0,0-3)]松本篤史(ALSOK)
準決勝  ●[0−2(1-3,2-4)]Keith Gavin(米国)
3回戦  ○[2−0(4-2,4-1)]Kamarudeen Usman(米国)
2回戦  ○[2−0(5-0,TF7-0)]Alex Burk(カナダ)
1回戦  ○[2−0(3-0,TF6-0)]Erik Liera(メキシコ)

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 《2010年》
 
【5月:アジア選手権(インド)】3位(12選手出場)
3決戦 ○[2−0(7-0,6-0)]Lee, Chien-Fu(台湾)
準決勝 ●[0−2(0-2,1-5)]Semyon Emyonov(カザフスタン)
2回戦 ○[フォール、2P(TF7-0,F3-0)]Gabriel Yang(シンガポール)
1回戦  BYE

 
【3月:メドベジ国際大会(ベラルーシ)】5位(27選手出場)
3決戦 ●[0−2(0-4,TF0-6)]Omargadzhi Magomedov(ベラルーシ)
敗復戦 ○[2−0(3-3,5-0)]Janis Leishavnieks(ラトビア)
3回戦 ●[0−2(0-1,0-3)]Akhmed Magomedov(ロシア)
2回戦 ○[2−0(3-0,5-3)]Omargadzi Ramazanov(ロシア)
1回戦  BYE

 
【2月:デーブ・シュルツ国際大会(米国)】4位(15選手出場)
3決戦 ●[0−2(1-2,0-4)]Keith Gavin(米国)
敗復戦 ○[フォール、2P1:29(1-3、F)]Ram Vir(インド)
敗復戦 ○[2−0(3-0,6-0)]Brandon Sinnott(米国)
敗復戦 ○[2−0(1-0,2-0)]Jeff Adamson(カナダ)
敗復戦 ○[フォール、1P1:58]James Reynolds(米国)
1回戦 ●[0−2(0-7,3-3)]Feng Zhang(中国)

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 《2009年》
 
【9月:世界選手権(デンマーク)】32位(37選手出場)
1回戦 ●[0−2(0-1,0-1)]Yavaser Gokhan(トルコ)

 

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