【特集】打倒伊調馨のため、基本に戻って猛練習を積む…女子63kg級・山本聖子(スポーツビズ)
【2010年12月日】


(文=樋口郁夫)



 1年以上の休養をはさみながらも、今年9月の世界選手権(モスクワ)で圧倒的な強さで世界一に輝いた女子63kg級の伊調馨(ALSOK)。実力と天才ぶりをあらためて見せつけた形だが、だからと言って、挑む選手の打倒伊調にかける情熱が衰えるわけではない。2012年ロンドン五輪出場を目指してマットに戻った山本聖子(スポーツビビズ=右写真)は、ジュニア時代に教えを受けた指導者をコーチとして迎え入れ、5月の全日本選抜選手権からの7ヶ月半、打倒伊調への思いを胸に、徹底的なトレーニングを積んできた。

 山本の指導を買って出たのは、10年以上前、日体大に研究員として留学中に山本を指導した1986年アジア大会グレコローマン48kg級金メダリストの金栄九さん。今年7月に来日し、山本を基礎から徹底的にしごいた。「下半身の強化から入らないといけないということで、構えから指導を受けました」と山本。

 それまでは「やりたいことが多すぎて、何をやっていいか分からず、時間が足りないと思っていた」という状況だったのが、金栄九コーチの指導を受けるようになってからは「やることを絞り、追い込んで練習ができるようになった」と言う。最低限度の体力と技術を戻してから、信頼できるコーチの指導を受ける。「いいタイミングで来てもらえたと思います」と振り返る。

 今では「どんな構えからでもタックルに入れるようになった。待ちに待った試合です。自分の100パーセント…、それ以上を試合で出したい」と話し、この半年以上の間に蓄えたエネルギーを爆発させる時を待っている
(左写真=10日の公開練習で多くの報道陣を集め、ネームバリューは抜群)

■「試合が待ち遠しい」と思うほどハードな練習を続けた

 2009年初めに復帰を決意してからの1年間、自分なりに必死に練習してきた。体力は戻っても伊調の実力には届かなかった。ならば練習方法を見直す必要がある。選手が壁にぶつかった時、やるべきことのひとつとして基本に立ち帰ることがある。これはどんな一流選手でも実行していること。世界V4の選手がプライドを捨てて構えという基本から取り組んだ。

 質・量ともにハードな練習だった。山本は「午前に4時間、午後に3時間とか練習しました。この練習がずっと続くのかな、と思うと恐ろしくなった」と、その過酷さを表現する。幼い子(長男・匠瑛君=3歳)を持つ関係で全日本チームの合宿に加わることはなく、基本的に兄(プロ格闘家の山本KID徳郁)の道場で少人数での練習だった。その分、手を抜くことはできなかった。

 猛練習は選手の実力アップに欠かせない要素だ。それは、試合よりもハードな内容でなければ意味は薄い。2000年シドニー五輪で日本の女子マラソンで初めて金メダルを取った高橋尚子選手が試合後に言っていたのは、「(高地であるコロラドスプリングズでの)練習に比べれば、ずっと楽だった」という言葉。血ヘドを吐くような練習を続けている選手なら、試合が待ち遠しくなるもの。試合の方が汗をかく時間が短く、ずっと楽だからだ。山本の口から出てきた「試合をやりたい。待ち遠しい」という言葉は、ハードさの証拠に他ならない。かなりの練習量をこなしてきたようだ。

■パワーアップでタックルの威力も増すか

 出ようと思えば、1月のヤリギン国際大会(ロシア)で出場資格を取った7月のゴールデンGP決勝大会(アゼルバイジャン)に出場し、世界の強豪を相手に実戦練習を積むことはできた。9月のスポーツ・アコード・コンバット・ゲームズ(中国)にも、手を挙げれば山本の実力なら選抜されてもおかしくない。

 しかし、あえて基本からの猛練習を選び、土台を固めた。今度の大会は、その成果を試す時。5月の全日本選抜選手権での伊調との試合は、結果こそ第2ピリオドでフォール負けを喫したものの、第1ピリオドは0−0で2分間を終え(クリンチの攻撃権を生かせずに落とす)、結果ほど実力差があるわけではない。「(タックルに)入れなかったです。攻め切れませんでした」。
(右写真:第1ピリオドは互角だった山本=青=と伊調)

 今度の対戦での勝算を問われると、「あの時よりは攻撃できるようになっていると思います」と、控えめながらも自身の実力アップを口にした。伊調の必殺技ともなっている(?)クリンチの防御の強さも研究して練習を積んでおり、今度はクリンチの攻撃という好機を逃すつもりはない。

 スタンドとクリンチで攻撃し切れなかったのは、「パワーが足りなかったのが一番の原因だったと思います」と振り返る。金栄九コーチの厳しい指導で、その部分は取り戻した実感はある。金栄九コーチは「体力は世界一になった頃に戻ってきていると思う。女子でナンバーワンでしょう」と、体力アップに太鼓判を押す。

 決して大言壮語はしなかった山本だが、心強い指導者に師事してきたことで、確かな手ごたえを感じていることは間違いない。山本の半年間の成果が試されるのは、12月23日だ。

 

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